【偉人伝】原雪子[おばちゃんの店 店主]

おばちゃん、こんにちは。

「は〜い、こんにちは。いらっしゃい!」

明るく元気な声と、とびっきりの笑顔で〝おばちゃん〞が出迎えてくれる。伊奈学園の西側、町制施行記念公園の間にある広い敷地内に「おばちゃんの店」はある。2016年に今の場所に移って、約一年。プレハブのような厨房と4つのテーブル席。お店のメニューに並ぶのは、そばやうどん、丼ぶりなど育ち盛りの生徒たちを喜ばせるものばかりだ。
「もともと地元でそば屋をやっていて、父兄さんたちから、何か店を出してほしい、と言われてこのお店を始めたの」。

当初は、そば屋の営業で使っていたケータリング用の軽トラを、姪っ子の家の庭先に停める形でお店を始めた。部活動をしている生徒を中心に賑わい、そば屋と掛け持ちしていた頃、忙しくて「おばちゃんの店」に行けない時は、姪っ子やパートさんに手伝いをお願いすることもあった。
本業がそば屋だったことから、麺類が主流だったが、相手は成長期の生徒たち。「ご飯が食べたい!」というリクエストに応え丼物も提供するようになった。今生徒たちに人気の『ビン丼』(白飯にとり天を乗せ甘辛タレを掛けたもの)は生徒とおばちゃんで作りあげたメニューの一つだ。開業から30年もの月日が流れ、街は著しく発展し、学校周辺も大きく変化した。伊奈学生も変わった、とおばちゃんは寂しげに話す。

「昔は食事が出るまでの間、授業のことや恋愛の話、部活の試合運びに関する会話が飛び交っていたのに、今ではもっぱらスマホとにらめっこ」。おばちゃんとの会話も減り、塾の時間だといって早々に帰る姿を見送る機会も増えた。

けれど、今も昔も変わっていないことがある。それは、生徒たちの品格だ、とおばちゃんはいう。挨拶はきちんとできるし、卒業しても覚えていて顔を出しに来てくれる。そんな生徒たちはわが子のように愛おしく、自分の誇りなのだ、と。「本当に伊奈学生が大好きなの。試合を見に行ったり、演奏会を聞きに行ったり。生徒と触れ合うことが元気の秘訣なのね」とおばちゃんは嬉しそうに笑った。

Profile

原 雪子 はら ゆきこ

地元伊奈町でそば屋を営む傍ら、伊奈学園創立3年目に「おばちゃんの店」を開業。店舗の移動や形態を変えながら、約30年間生徒たちの胃袋を支えてきた。そば屋閉店後は、毎日「おばちゃんの店」で食事を提供。多くの卒業生に慕われ、贈られた代々の寄せ書きやエプロンなど、今でも大事にしている

取材年:2017年文章:ー写真:ー