【インタビュー】加太潤一[漫画家]

課題に打ち込む日々のなか
ふと思い出す本当の夢
#

美術に関わる仕事がしたい−−−。そんな思いで伊奈学に入った加太(かぶと)潤一さん。当然、美術系を選択し、伊奈学独特のハードなカリキュラムにも適度な競争心で臨んでいたというからすごい。高一の初期の段階で「東京藝大を油絵で受験する」と決め、朝から晩まで課題に向き合い、最適解を探す日々。しかし東京藝大の壁は高かった。今度は予備校の無機質な部屋で、美大合格に挑むライバルたちとひたすらデッサン。18時まで予備校、その後学費のため23時までバイトのくり返し。

「自分なにやってんだろう、と思いましたね。状況がカオスでした」。

ある日、そんな日々が急に滑稽にみえてきた。そして「この環境を漫画にしたい!」という思いが湧き上がってきた。思えば中学生の頃までは漫画家を夢見ていた。高校では絵画に文章をつける課題も上手いとほめられていた。3度目の大学受験で合格が叶わなかったことを機に、加太さんは進学を諦め漫画家へと舵を切り直す。

高校時代の友人がもたらす
不思議な人生の転換点#

まずは新人賞に応募するための作品づくりをはじめた加太さん。「ネーム」と呼ばれる下書きで全体の構成を描きだす作業。しかし、どうしても既定の枚数におさまらない。

「今思えば、短編映画の尺に長編映画を押し込もうとしてたんです(笑)」

結局2年間、作品を完成できずにバイトを続ける日々。気持ちは焦るばかりだった。そんなとき、伊奈学時代の親友からワーキングホリデーに誘われた。海外でも漫画は描けるだろうと言われ、状況を変えようと一念発起。さらに「賞へ応募するより、未完の原稿でも見てくれる編集部を探したらどうか」と、インターネットで探し出し、なんと編集者との面談アポまで取り付けてくれたそう。

ワーキングホリデー出発3日前、加太さんは編集部でネームを見てもらい、作品を気に入ってくれた編集者さんから「一緒にいいものをつくりましょう」と名刺をもらった。人生初の担当編集者がついた瞬間だった。そしていよいよデビューへ。ワーホリ滞在先のカナダでラーメン屋の仕事をしながら読切作品を描くというハードな日々。バイト中、揚げ物の油に右手を浸して大やけどを負ったり、完成間近の作品データを消去してしまい大急ぎで描き直したりと「友だちに漫画より面白いと言われる(笑)」修羅場をくぐり抜けながらその度に実力を蓄えていき、ついに2018年漫画家としてデビュー。

「ホントに最初についてくれた編集者と、伊奈学の友人たちには感謝してます。この間も他のクラスメイトが『非公式サイン会だ!』とみんなでコミックを持ち寄ってくれたり……伊奈学での繋がりが大きな支えになってます」

加太さんの仕事部屋にはデジタル機材と影響を受けた漫画たちがずらり

心揺らす物語を支える
日常と作品へのエネルギー
#

デビューして7年。キャリアを重ねることで、加太さんの作品づくりに対する姿勢も変わってきた。

「今はいかに読者の方に喜んでもらえるかだけを考えてますね。締め切りしかみえてなかった頃に比べたら、ものすごい進化です(笑)」

大事にしているのは、非現実的な設定の中でもベースは”リアル”であること。それが作品の説得力になるという。老人ホームを舞台にマフィアや元殺し屋が繰り広げるバトルをコミカルに描いた最新作『GGG(ジージージー)』も、祖母が介護施設へ入居することになった際の実体験が元になっている。

「施設に預けるということは祖母のことを邪魔者扱いしているようで……。とても後ろめたさがあったんです」

しかし、しばらくして面会に訪れてみるとそれが思い込みだったことに気づかされる。

「僕のことは忘れてたんですけど、お茶目な祖母の人間性がそのままだった。それがホントに嬉しくて。なんだ施設っていい所じゃないか、と」

家族を施設に預けることへ葛藤を抱える人は多いだろうが「実は施設でも楽しく過ごせるよ、悪いところじゃないよ」ということを伝えたくてこの作品を思いついたという。連載を描いている最中も、つねに新たな構想のタネをメモしているという加太さん。高校生にしておいて欲しいことは、との問いに「やり切ること」と返ってきた。

「『やーめた』は無しです。途中で無理かもしれないと思っても、そこからもう一度踏ん張ってみる。やり切ったところで、その次の景色がみえるようになるんです」

やり切ることなら、どんな分野でも通用するし、今からでもできる。普遍でありながら、今一番大事なことかもしれない。

Profile

加太潤一【27期2J・美術系/美術部】
かぶとじゅんいち

1995年生まれ。春日部市立春日部中学校。油絵専攻。 東京藝大を目指すも2浪したのち漫画家へ転身。 2018年GANMA! にて読切作品『タクマのキャンパス』でデビュー。 最新作『G G G(ジージージー)』をジャンプ+(プラス)にて連載中。 ■掲載歴 2018年 読切『タクマのキャンバス』(GANMA! ハート駅伝2017-2018) 2019年 連載『高架下のキャンバス』(GANMA!) 2019年 読切『僕は君を殺して幸せになる』(読切マンガ祭 夏の31連弾) 2020年 読切『Aliens』(ジャンプ+) 2021年 読切『今日からエスパー貞道』(ジャンプ+) 2022年 読切『安目民男は眠れない』 (マンガワン「マンガイチ」準入選受賞) 2025年 連載中『GGG -ジージージー-』(ジャンプ+)

取材年:2025年文:中西好恵写真:三宅詩朗